2008/01/21
涙の海に溺れたい


開かれた稽古場だった。本公演を決めて、台本執筆中。あたしはもう火がついた。今日からはキャスティングも加味しながら、もっともっと綿密な稽古にしていこうと決めた。声を念頭におく。リズムを念頭におく。そして、こころの蠢きを念頭におく。稽古場に到着する俳優たちの目がギラギラと輝きはじめている。
変態公民館の倉庫、ここには赤い階段があって、あたしはこの階段で居場所を変えながら、稽古をみている。何としても強い声を手に入れたい。叫んでも、いっぱいいっぱいではない、強い、芯の在る声で芝居を創りたいのだ。
芯のある声は囁いてもぶれない。叫んでもぶれない。
まず、声の稽古。歩きながら、声を飛ばす。声の連鎖反応。初っ端、みんなの声が弱い。歩きながら、声が次第に増長していくイメージを投げる。だんだんでも急にでもいい。それぞれが声の限りない増長を目指してほしいと課す。指示をしたわけではないのに、それぞれから「息」が出る。嬉しい。次回は「息」を追求したいと想っている。息から声に変わっていく。他者の声からの刺激を連鎖していく。声のボリューム、強さがあがってくる。いいぞ、と想う。歩きにスピード感が出始める。表情が険しくなる。目が飛んでいく。声の増長にはいささか不足だが、目指す方向へは向かった。3連発。途中から初参加のYきが加わる。強い声のNちゃんと皆の落差が気になる。Nちゃんの声のレベルももっとあがり、みんなはもちろんあがってほしい。
この世の想像を超えた声の連鎖が見たいのだ。
増殖する声。だ。
身体を楽器にする訓練。今日も音を身体に取り込み、共鳴させ、反応させる稽古。相方の音は先週のジョンケイジがちょっとメロディアスだったので、今日はちょっと注文をした。ぴったりの音が鳴る。今日は号令をなしにして、他者との刺激をそれぞれにと言う。なかなかいいが、声が出てこない。声を入れて、オーダーする。身体の絡み、声の絡み、音との絡み、なかなか面白いものが見えてきた。繰り返しの結果に見えてくる、これが表現の醍醐味だと想う。
Mもとがいい。Nちゃんが従来の枠を抜け始めた。フリージャズだ。えりNはこの訓練だけではなく、感性がいい。柔軟性がある。Tえは、なかなか陶酔していけないが、奇妙キテレツが先行した動きではなくなってきた。これは収穫だ。自己に中心をおくのではなく、まず他者との共鳴。そこから、次にはみ出ていくあなたがみたい。
ブリッジによる発声。もちろん、声の伝達。逆立ちをしても強い声が出るところまでいきたいね。
エチュード連発開始。まずは、大事なひとの自殺を見る。今日は号泣までを要求する。Y山くん、感情は非常に豊かで柔軟だ。泣ける。しかし、身体に緊張が見える。脱力をすこしアドバイスしてみる。Nちゃんはまた進化した。今まで出なかった手足の動きが、感情をもっと哀しく見せる。もっともっといけそうだ。Tえ、1回目頭で考えた構想に感情が後追いする。見ていられない。止める。感情を追うこと、日常から予期せぬことへの反応を説明してみる。
舞台の上で読めてしまう説明は、芝居の命を取る。常に、今起きていることの芝居にしたい。2回目、少し繋がるが、号泣までは至らず。相手の反応への想像力が欠けている、それを説明していると急に堰を切ったように号泣する。
それでいい。それが、もう少し早く想像できるように。これは繰り返すしかないのだな。Tまもいい。いいが、このひとの生き様の癖か、肩肘を張る。あれが取れたら、素敵なのだけど。Yき、芝居のためなら息子を殺す。この根性が好きだ。号泣する。が、どこか違う感情の号泣に見えた。
想像力を使っても、愛息を殺すまでは至らず哉?
Mもと、感情がよく動くようになってきた。号泣成功。いや、泣き成功か。もっといきたい。
えりNは、想像力に長けている。これは凄いことだ。鍛えたい。
カップル、一方が殺人を犯す。刑事が訪ねてきて逮捕される。まず,NちゃんとえりN。どうしたの?と聞かれて、居たたまれず抱きすがる態のNちゃん。すがる気持ち、よく見えた。殺してしまったことをぼそりと言う。刑事。刑事役のYきの珍問答に笑う。中断。再び。いいシーンだった。
殺人を犯したTえとその恋人Y山くん。最初、それとわかる入り方のTえ。刑事。Tえ、激しくY山くんに覆い被さり抵抗する。Y山くんがいい反応をしているのだが、押しつぶされ残念。相手に思い遣りを持つこと、を指示してみる。2連発。殺人へのイメージ、相手への想い、懺悔、後悔、そういった感情がみたい。捕まることへの恐怖、だけでは面白くない。
Yきの殺人者にえりNの妻。明るいえりNにこわばるYき。いい空気が流れる。刑事。えりNが乱れる。そう、こういう信じていた者からの青天の霹靂的な出来事、その反応がほしいのだ。成功。Yきの最後のセリフはいらなかったね。
Tまの殺人者にTえの恋人。まず、愛し合うアンカー作りにアクション。疑似恋愛であれ、こころも体もほんとに近づきたい。
Tまはこころの揺れがとてもよく見えた。そうね、それでいい。
さて、シーンとしてはまだ不足だ。また機会を作りたい。
相関図エチュード。今日は2連発。結果が見えた。少しずつ、自己主張と探りと妥協と本音とが交錯しはじめたし、何より愛情が見えた。今日のシーンはよかった。Tまの独占欲なんて、いいね。
このあたりまでくると皆のこころが柔軟になる。Mもとの傍観も笑いも今日は効いた。
精神病院。あたしも、それぞれの俳優も模索中だ。今日もシーンを続ける。狂うということ、その日常、さてさて。面白いものはそれぞれから出る。いいシーンだが、果たしてまだ先がありそうだな。
アクションを加えてみる。その反応。もしもが連鎖するエチュードは難しく、奥が深い。
芝居に正解はないのかもしれない。ひとつ歯車が狂っても、そのシーンは嘘に見える。歯車が噛み合った、しかし狂気に充ちた芝居が創りたい。
これは現実なのか妄想なのか、そこを目指したい。