2012/08/27
エロスとタナトス。新作『月が破れて闇夜が降れば、内なる魔性が彷徨い歩く。』

稽古場より帰宅。今回は創りたいものにまったくと言ってよいほど届かない仕上がりで、薄っぺらで沸々としている。諦めずに創り続け、問いかけ続けていくし かないか、と自己決着したので、稽古日記を記す。今回はエロスとタナトスを根っこにした新作を。『月が破れて闇夜が降れば、内なる魔性が彷徨い歩く。」 作・演出 森島、選曲 森島、音 Dub 、出演=M本、Mケル、Y子、M子、S美の5名。見学 1名。音はYOSHIKIのドラムソロ、村上ポンタ秀一さんのドラムソロ、アフリカ民族音楽、ムー ディ勝山の「自分を出そう」、さっちぶ「月が綺麗だから」を使用。
客電落ち、暗転。明かりが入ると唱和。「生命線ひそかに変えむためにわが抽出にある一本の釘」寺山修司の短歌である。覚えてきてと言ったら、覚えてくるこ と。身体表現に変わっていくシーンなので、腑に落ちていない言葉は立ち消えてしまう。後ろにあるのはドラムの音だけ。何度か止めてはリズムに乗せる。リズ ムに乗りきれないY子はもっての他。あなたの表現はその先になくてはならないのだ。S美のリズム感覚の悪さは早々に叩き込むことにする。M本、Mケルのラ インがどうしても欲しいんだよ。この短歌から始まるこの芝居は、エロティックに変容していく。月がある日壊れて粉々になって、訪れた闇。闇の中で男と女は 欲望の渦に飲まれていくのだ。身体の疼きが誘惑へと変わる。誘惑されて男は破滅的に性を愉しむ。シーンはとある風俗嬢とお客様。ふたりは恋に落ちる。暗 転、明転。ふたりは仲良く暮らしている。暗転、明転。男と女のののしりあい、大げんか。男は女に言ってしまう。「風俗嬢」と罵ってしまう。ここに風俗嬢の 背景がまったく見えず、すべては金にまつわるシーンの流れに反吐が出た。人間を差別せず、人間を愛すことがまずははじめの一歩。それがなくては役にはなれ ないのだ。風俗嬢とお客様の恋愛、当然のように店に通う女。金を無心し、金の恩を着せる女。そんな三文小説な発想しかできないのかな。哀しかった。
人間を深く考えること、とダメを出しておいた。今回のシーンで飛び出した言葉は、きっとふたりにはすべて禁句でなければ、その前の恋愛も生活もウソにしかならないということ。その禁句を守ってきたふたりをたった一言が壊してほしかったのだ。
今作の芯となるモノローグ。以下に掲載する。
最後になってモノローグの書かれた1枚の台本を握り潰して、男、女は本音を吐き続ける。実に見事に澄んだ愛の歌の中で。音高まり、暗転。中身がしっかり、 エロスがどっぷり創れれば、このラストの暗転でお客様の拍手を照れくさくなく浴びることができるかもしれないが、今回の出来では、このベタな終幕が妙に照 れくさく、暗転を合図し、客電つけて、だめだあ、と言ってしまった。そんな出来。残念過ぎる。
さらに「罵る」「称える」を使った「あるシーン」
全体的に覚悟が弱く、成立しなかったので、止めて、2本。五十歩百歩だった。
最後に恒例相関図。愛の物語なのだよ。人を愛することをもう一度、真剣に問いかけてみてほしい。綺麗事は美しくないということよ。
さてと、諦めず、頑張ろう。

本日のモノローグ
  海岸線、車の放列。
  僕はテールランプを追いかけて、海岸通りをひた走った。
  ハンドルを握ると日常の喧噪を逃れることが叶った。
  先週の火曜日、何をやっても空回りだった一日をやっとやり遂げた深夜、
  母の死を告げる電話に出てしまった。決定的な打撃、塗り替えることはで
  きない残酷な現実だ。
  葬式は終わった。僕は泣いたのか、笑ったのか、怒ったのか、あまり覚え
  てはいない。感情を忘れたような日々はもう終えよう、と
  今、僕はここにきた。
  誰にも会わず、空を見る