2008/05/12
魅力と経験と

寒い日だった。雨のなか、外ではT巳さんが防音の装置を立ち込んでくれていて、あたしはのびのびと開かれた稽古場に集中できた。公演もなくなり、参加者も他の稽古や映画の撮影やで追われているこの時期、少人数の稽古が続いている。
本日も参加者六名、いつもの見学音響の相方は今日は立ち込みの手伝い。ありがとう。はじめてO屋ちゃんが参加、稽古前に宿題を点検する姿に、芝居をやっていたまじめな演劇少年の面影を見た。稽古の前の発声や柔軟、こんなことでも稽古場の空気はよくなる。稽古開始。歩く。イメージを持って歩く。自然にイメージのままに歩くということ。なかなか難しいものだ。何かをしようとしてしまう。イメージが伝わってこない。こちら側に伝える方法は形ではなく、イメージ。強いイメージはかならず、こちらに見えるのだ。弱い。形ばっかり。O屋ちゃんは非常にアクティブでいい。けれど、ある芝居の手のようなものが身に付きすぎている。削いでしまいたい。Tえ、このところ穏やかさに包まれた彼女。ゆっくり噛みしめるように歩いた。もう走らなくていい。そうやって、しっかり地面を踏んで歩いていこうね。Eな、今日の歩き、イメージは集中力なし。イメージが湧いては途切れる、焦る。形になっていく。そろそろ、自然に歩くということを掴まえにいこう。明るい笑顔のうしろのあっかんべーをそのまま出したい。Kさわくん、本当に楽しみだ。イメージを必死に追う。N山さん、随分とはったりがなくなってきた。きっともうすぐ彼女の中の柔らかいものが見えてくるだろう。イメージを持って歩き、そのイメージを音、声、言葉にする。これはイメージがない。そこで出てくる音、声、言葉ではない感じ。イメージの強化だね。Aりは、音楽を作る人、彼女の中にある風景を見ていくことはきっと活かせるだろう。イメージを追う力は誰よりも強かった。Tえ、柔らかい声を発している。それでいい。あなたにうめき声も怒声も似合わない。他者と演劇的に会話する。手を打ったときに他者と関わっていく積極性がない。止める。助言。きっかけで、方向を変えること。それぞれが反応できた。最初からそうしてくれ。演劇的シーン作りも手探りだった頃よりずっとよくなってきた。さらに歩く。怒りの感情を持って歩く。もっともっと強い怒りが見えてこないかな。不満。全員少しずつあがっていく。Kさわくんは良かった。感情と身体が繋がっている。全身の表現だ。いいね。Tえ、諦めて生きてきてしまったからか、ついに怒るという感情は想い出せなかったのだと想う。Eな、怒りの感情がすぐに折れる。怒りを押し殺さないところに一度いっておきたい。N山さん、彼女の怒りも弱い。O屋ちゃん、怒り、確かに持てている。持てているのに、すぐに形にしてしまう。もっとその感情を膨らませることだ。もったいない。Aり、ふつふつと怒りは見える。まあ、よしか。他者と絡む。怒りのぶつかり合い。なかなかどのシーンも見応えあり。連発。O屋ちゃんのアクティブさに随分と相手役の反応が動く。稽古としてはとても有意義。歓び、幸せの感情を持って歩く。それぞれの内面からこぼれる、溢れる熱い、温かいものがほしい。泣いたり、わめいたり、叫んだり、そんな感情だけをあたしは求めていない。これはみなの顔が優しくなり、にこやかになる。もっともっと。温かい気持ちも大事だよ。他者と演劇的に会話する。切り取る。O屋ちゃんとTえ、歓びのシーン。そこに他の俳優がシーンをドライブさせるエチュード。競馬に当たった20万円だかをどうしようかというカップル。Tえ、楽しそうだった。いい笑顔だった。O屋ちゃん、もっと細かい表現がほしい。発想力が豊かなので、ひとつのことを追求したら、もっと魅力的になるね。そこへ、N山さん仲間にいれてと加わる。とても自然ですんなり。Kさわくんが僕もと加わるが、拒まれる。止める。さらに、同じシーンをそれぞれに細かく感情を追うこと、必死にお願いすることをアドバイス。さらにEながKさわくんの妻として、Aりが子供として加わる。少しずつ面白くなってきたので、止める。再度。Kさわくん家族はもう何日もろくな食事をしていない設定。
Kさわくんの入り方ががらりと変わる。自分はホームレスだと言う。Eなも加わるが必死さがKくんに追いついていかない。頭で追ってはだめだね。気持ち。想像力。O屋ちゃんはただただいやがる。行こうと逃げる。すがっているうちにKさわくんの表情が変わってきた。Tえの表情が動く。いいね。Kさわくん、必死になる。とてもいいシーンになった。一列に並んだところから、1点に怒りを集中させる訓練。それぞれの怒りのベクトルが一点に向かう。よかったよ。他者との接点がさらに持てるといいな。
続いて、発声。ブリッジからの声の受け渡し。Aり、発声ははじめて、腹式を教える。それぞれの腹式を点検。おなかに溜まる息が少ない。増やしてね。
全員。
N山さんのブリッジが綺麗になった。Eな、Tえ、ぶれ幅は大きいが、訓練を続けてきた成果はみえる。Kさわくん、早く声を獲得してしまおう。シコで「黒の舟歌」1発目、ふにゃふにゃ。腹筋強化のための歌だという意識。シコの腰が高い。1フレーズずつ。だいぶいいが、もっと強靱な歌にしていこう。
外郎売り。早く覚えること。テキストの紙がうざい。Kさわくん、Tえ、完璧。次は表現にいけるね。覚えることの先にやりたいことがある。発声も滑舌も甘いね。Tえ、身体にはいいから、せっかく覚えたのだから、これはこれからも続けてね。
泣くエチュード。Tえから。泣き崩れる。そこへ他の俳優がシーンをドライブさせる。Tえ、いい泣きだった。腹をくくったことで、今日やっと自由になれたみたいだね。Kさわくんが声を掛ける。O屋ちゃんがしょうもない暴力男で加わる。N山さん、Kさわくんの母として、加わる。Eな、見かねて男を攻める。
シーン運びは面白いが、あまりにうそっぽい。止める。それぞれにリアルな感情とダメをだして、再度。Tえ、床に溶けてしまうほどの泣きを求めてみる。とても良かった。Kさわくん動き始めるが、まだまだ。しばらく、ドライブしてみるが、泣き続けているTえへのベクトルがない。見ていられない。
止める。優しいもの、温かいもの、演劇には必要なものだ。アドバイス。再度。O屋ちゃんのヒールの役作り、もっと徹底してもいいな。優しすぎる。さて、それぞれが泣き続けるTえに気持ちが向く。とてもいい。ついにKさわくんが怒りと悲しみと同情と愛情が入り交じったとてもいい動きを見せた。O屋ちゃんに迫り、「それじゃ、別れろよ」とてもとてもよかった。Tえが一瞬だけ止まった。感情の流れが見えて、温かかった。手を打つ。Tえだけを残し、他をストップモーションにする。Tえに言葉を注文する。何を言っているのかわからない、ただ、Tえの中からうそのない言葉が続いた。よかった。カットアウト。
身体表現。ウォーキング。デッキが不調のため、身体表現の曲。ウォーキング。それぞれ、絶世の美男美女。綺麗だったし、かっこよかったよ。時には勘違いするほどの自惚れも必要だと想うんだ。
続いて、身体に音を取り込む訓練。今日はいまひとつぱっとしなかった。もつともっと溶け込んでしまいたいね。Eな、ムラがありすぎだ。
最後はケツメイシ、ラップ合唱。アウトラインが見えた。これは楽しみだ。さて、休んでいる方たちも覚えておいてね。これは最高に面白い試みだから。
最後は恒例相関図、2発。
男優2名だったので、3股男のブルースか。2本目、Tえがまた引いたので、思い切って止めて、再度。向かっていけ、と指示。そうだ、自信をもって生きていけよ。
身につけなくてはならないことは山のようにある。だけど、それぞれの魅力を大事にしたい。
開かれた稽古場
防音もぼちぼちと整いました。
さらに魅力開花と参りましょうね。