2013/04/08

夜になると少し寒い。宮古から届いていた新わかめを美味しくいただき、飽和した頭を鎮静して、稽古日記を書く。開かれた稽古場、コツコツと続けて早253回、6年目かな。旗揚げの時に母体となる試し稽古をやったりしたが、継続は得たり、離したり、の螺旋階段のようだ。さまざまな人が来て、去って。そんな中、それこそまだ10何回目かに何度か参加したことのある未来がやってきた。初参加の役者桶を連れて。というわけで、参加5名で作品創り。あたしの本は文字だけを読んでもわかりにくいかもしれないので、最初にザラリと内容を説明。音も入って成立していくパーセンテイジも高いかな。1時間の作品なのだが、止めて返しての稽古で1時間20分を越えてラストまで。初参加の桶は最初かなーりゆるく参加してきたが、少し刺激したら俄然本気度増し。未来の大胆さが途中でキレイに納まってしまうのが、もったいない。松本は途中でテクニックに走ったせいなのか、最後のシーンでノッキングした。Hでは今、ちょうど活きている状態にあるように想う。が、刃物のような鋭利な部分が消えないようにしたい。千景はまず心の枷をどう外していくのか、それは自身で真っ向から向き合うしか手立てはない。できない己と向き合うことだよね。
今回は言葉の扱いが気に入らなかった。記号としての言葉、台詞としての言葉。音の中の言葉。すべてを共存させるべく書いたのだが、役者がへたな計算をしてしまって、同時多発の協和と不協和が叶わなかった。ここにものすごくストレスを感じていたのだが、食事の席でそれを発言できるチャンスがきたので、はっきりと言い切り、帰りの車中で松本にも話した。心のままに、ただそれだけを望む。同時多発は作為のズレは要らないのだ。台詞をつらつらと発してしまうことが気になり、修正もした。
感情をカチリと切り替えてほしい。ということ。それぞれにもそれぞれにアドバイス。とにかく、繰り返して得るのみ。
今回は選曲や加工が難易度を上げたかな。それでも玉井、松本、未来は挑む姿勢が心地よし。台本、選曲を公開する。
★動画はラストの身体表現。「己にウソをついて、己をだましつづければ」
『記憶の糸をたぐり寄せ、縛って砕いて閉じこめて。』
作・演出・選曲 森島、音・音加工 DubmasterX 出演 松本渉・玉井英棋・板津未来・藤川千景・桶谷ケン

客電消える。
暗転。
「空、空、空、空、空」
じわじわとした明かりの中で、数々の言葉たち。人々は言葉を発しては口を、あるいは耳を塞ぐ。
ここには感情はない方がいい。様式として。
「見ていない」「もうずっと」「空」「あのとき」「記憶」「回れ」「遠心分離」「破壊」「羨望の窓」「恍惚の扉」「空」「赤い」
身体表現。『空が大きな口を開けている。』使用曲 What Hurts The Most - Rascal Flatts  
http://www.youtube.com/watch?v=gnVkYjEbe8M&list=PLAHO0iU_ltWq9M9Ki8AEn91KcyKsX9EXw
身体表現の中で心が動き始めてほしい。
「あの日から僕は(わたしは)もうずっと空をみていない。」
空を見上げる。
空の底が抜ける。激しい恐怖。身体がガタガタとこわれるような、心がギシギシと軋む如く。しくしくと泣く。
「空の底が抜けた。その空の遙か奥底に飛行機が吸い込まれていくのを見た。その時、僕は(わたしは)気づいた。」
恐怖に追われ、身体中を抱きしめるように気を失う。
使用曲 夜行性の生き物三匹 - ゆらゆら帝国  
http://www.youtube.com/watch?v=n_dk8ChdCA8
目が覚める。子供の頃。夜明け前。
家の中に気配がない。母の気配がしない。とてつもなく哀しくなり、しくしくと泣く。
「泣いているうちに僕は(わたしは)また眠った。パパは仕事が忙しかったから、昨日も帰ってこなかった。ママはニコニコとパパは一生懸命お仕事よ と僕を(わたしを)みた。ママはいつも笑っていた。僕は(わたしは)ママとパパは仲良しと思わされていた。仕組まれた家族かよ!」激高。
「朝、ママは僕を起こしてくれなかった。このへんがザワザワして苦しかった。ママの部屋を開けた。ママはいなかった。」
しくしくと泣く。
走る。学校に向かって、走る。
「僕は(わたしは)2時間目の国語の勉強の時に山下先生にお父さんが用事があるそうだから、と帰宅を促され、ランドセルを無理矢理しょわせられて 家に帰った。」
ドアを開ける。身体表現。「ママが死んだと聞いたので」
家に帰るとパパがいて、無言で新聞を差し出した。交通事故の現場の写真、ママの顔。(身体表現の中で)使用曲 中島みゆき 世情 (シュプレヒコール含む)
http://www.youtube.com/watch?v=q12S3ggaEIw
売りにゆく柱時計がふいになる横抱きにして枯れ野いくとき
売りにゆく柱時計がふいになる横抱きにして枯れ野 
ゆっくりゆっくり心に蓋をしていく。
「葬式」「事故」「知らない」「ニコニコ」「上機嫌」
様式的につぶやく。
「ママの事故はしようがない事故だったとパパは僕に(わたしに)話してくれた。僕(わたし)もそう思った。たくさん泣いた。」
しくしくと泣く。
身体表現。「壊れてしまいたい」使用曲  スラヴ舞曲 作品72の2 ドヴォルザーク
http://www.youtube.com/watch?v=9PkVJuBFw2o
慟哭の叫びと共に。
「すぐに新しい母ができて、僕(わたし)はママと呼んだ。パパとママは仲良しと思わされた。僕は(わたしは)高校生になると街を彷徨って、ニコニ コと笑った。心がカラカラに渇いているのに、笑い続けて、彷徨った。仕組まれた人生かよ!」
激高し、次第に泣いている。
「空を見上げていない。ずっと空を」空を見上げる。「空の底が抜けた。旋回する飛行機、正体のない紙飛行機。」
哄笑。
「ああ、そうだったのか。あれは事故ではなかった。あれはママの裏切り。裏切られたこども。それがオレ。(あたし)」
「気づかないで過ぎていたことの答えを知ってしまうことがあって、大概それはウソ、偽物。」
静かに佇む。
観客を見つめる。
「もしもし」
「空、見上げていますか?」
「もしもし、オレ(あたし)。今夜は仕事でダメになっちゃった。ごめん。」
「ウソ」「またウソ」「正体のない紙飛行機は、いつまで旋回しつづけるのだろう。」
自己弁護。
身体表現。「己にウソをついて、己をだましつづければ」使用曲 Daft Punk - Technologic
http://www.youtube.com/watch?v=YtdWHFwmd2o
ニコニコ顔。
暗転。
明かり。
ニコニコ顔。
暗転。
明かり。
氷のような無表情。
暗転。
客電。 

他に「方言による諍い」「懇願」2連発、修正。
「相関図」
諍いに天井抜けたピークが見られず。つまらなかった。こういうものには玉井のシャープさが欲しい。懇願は、松本に忘れてほしくない「毒」を喚起した。シーンとしてもまあまあ。相関図はキレイに結論まで出て、未来の迷いのなさが心地よかった。男優陣の最後の感情があまり見えず。
以上。
自由参加、いつでもどうぞ。
未来とはこの5年も何本か仕事もしている。そこで懸念した部分がここでは開放された。活き活きとしていてほしいと改めて想った。心が動き出すまでじっと待てばいい。ここはそんな場所。そんな稽古場でありたいので。またおいで。
初参加の桶も鍛えるから、とんがってまたおいで。