2013/09/02

開かれた稽古場。今回は冤罪により投獄された男の物語。感情、極限状態の作品を男優ふたり、音響さんと共に創る。とてもよい仕上がり。これを練り上げていくために今回のぼけた部分を指摘した。もっとはっきりと捉まえていけば、観客席との同化作用が明確になると想った。けれど、松本、桶ともにブレが少なく、集中力にも優れてよかった。Dubさんも台本に特に音指定をしなかった部分にも音を用意してくれたので、さらにこうして欲しいという先の要望を伝えることが叶った。時間の流れを想像力と共に追う。芝居は投獄されて5年経ったところから始まり、20年経って終わる。まだまだ彼らはこの監獄の中で暮らして時間を重ねるのだ。男達は違うと言い続けるが、それは届かない。やがて男達は恋人を殺し、嘆くという夢に魘される。男は多重人格者のように問いかける。罪を犯したのか?もうひとりの僕がと。台本、使用曲公開する。
★ 動画は身体表現、「違うと声がなくなるまで僕は」部分。

『ボロンボロンになったとしても、言わせてほしい、NOとちがうと僕の言葉で。』
作・演出・選曲 森島、音、音操作 DubMasterX 出演 松本渉、桶谷健司

客電落ちる。
暗闇。四角い枠の中を徘徊する人々を時折明かりが照らす。 雨だれのようなリズム。
じんわりと明かりが入る。
人々は一瞬激しい怯えを見せるが、放心する。
徘徊をやめて、うずくまる。ここは監獄である。 叫ぶ。そして、放心する。
ややあって、「今日は何曜日ですか?季節はいつですか?今日は西暦でいうと何 年ですか?」「わからない」
放心する。 汗が吹き出る。その汗を拭う。さらに拭う。
「寒い、僕の体の内側がどんどん壊れていった。あちこち、ここも、ここも、こ こも、ここも、痛い。体の毛穴という毛穴から小さな虫が吹き出てくる んだ よ。あ、ほら、こいつだ。こいつだ、こいつだ、こいつだ、こいつだ。寒いん だ。寒いんだ。」
汗を拭う。皮膚から這い出る虫を潰す。 放心する。
「ずっとここにいる。ずっとここにいる。なぜだ。なぜだ。ギシギシ の体、ギシギシの歯ぎしり、ギシギシのここ、ここ。ここ。」
身体を掻きむしる。
「違うんだよ」「なにが」「わからない」 放心する。
突然飛び上がる。身体を震わせる。「
何だよ、え?何か言った?あれは何の音 だ?おい、俺を追いつめるあの音は何なんだよ」
耳を塞ぐ。耳の中で鳥の羽音が聴こえる。耳の中でフランス語で囁く女の声が聴 こえる。
「聴こえない、あなたの言っている言葉が聴こえないんだ。もう一度、言ってく れ。」
叫ぶ。
四角い枠の中を徘徊する。(舞台奥)壁に向かって立ち止まる。
ドアを激しくノックする音。振り返り乍ら、ドアを開ける。
「はい、僕ですけど?何か?え?何ですか、それ。やめろよ、放せ。おい、放 せ。痛い、、、何なんだ。」 「僕に押し付けられた罪は」叫ぶ。
身体表現。「違うと声がなくなるまで僕は」使用曲 Herbie Mann - Sunny
http://www.youtube.com/watch?v=fE0qBOhVsiM&list=PLFB22F80DB6753F74
言葉。「叫び」「動揺」「錯覚」「NO」『戯言』「大罪」「叫び」「嘆き」「殺 人罪」「僕」「僕」「NO」
音カットアウト。
膝を抱えてしゃがみこむ。 無言。放心。
「あの日、判決が出た。無期懲役。永久の囚われの身となったんだ。こうして、 こうして、こうして。永久に追放された僕。僕は違う。僕は違うと声が なくな るまで叫んだのに、僕はこうして、こうして、生かされて閉じ込められているん だ。」
「もう10年経ったかな。」
爆発音に怯える。
「何だ、何の音だ。何の音だ。」叫ぶ。
「身体が軋む。頭が軋む。心が軋む。ギシギシと歯ぎしりをする。」
のたうつ。四角い枠の中を徘徊する。 壁に向かって立ち止まる。 振り返り、鬼の形相。
「裏切り者、あんなにお前を大事にして、お前のすべてを 愛したのに、裏切り者」つぶやく。 奇声を発して、女の首を絞める。 我に返る。
「おい、おい、おい、どうしたんだよ、おい、おい、おい。ごめんね、ごめん ね、ごめんね。」 動かない女を揺さぶる。
「死ぬなよ、おい、おい、僕がこんなに愛しているの に、死ぬなよ」 極限の感情にて。
身体表現、「僕だけの君になってほしくて」使用曲 サディスティックミカバンド ヘイ!後機嫌はいかが?http://www.youtube.com/watch?v=ixpJ5Wbb0oU
音カットアウト。
「僕はそんな夢をみた。残酷な夢をみた。あれは夢だ。僕がもうひとりいるとい うのか?」
耳を塞ぐ。 「何も聴こえない。僕はもう何も聴きたくない。僕は違うんだ。僕は違うんだ。 僕は何もやっていない。」
放心する。 膝を抱えて座り込む。
「四角い宇宙、僕の四角い宇宙。この野郎のこの成れの果て。NO、NO、違うん だ。あれ?あれ?あれ?今日は西暦何年宇宙?あれ?あれ?あれ? 何?何?何?」
「僕の中の僕がしでかした不始末。僕は知らない。あれは夢だ。僕は何もやって ない。僕は、あれ?寒いよ、寒いよ、寒いよ。」
「ここから出してくれ。ここから僕を解き放してくれよ。」
「NO、NO」
「君、誰?」
「僕は誰?あ、毛穴から虫が這い出る。これ、これ、これ」
暗転。 「今日は西暦何年ですか?」 「あれから20年」
徘徊するが、極めてゆっくりしか動けなくなっている。明かりが時折明るくな る。雨だれのように。
明かり入る。
放心した人々。 「違うんだ」つぶやく。
暗転。
客電。

さらに後半も「極限」のシーン、即興。細かい感情を追って、丁寧に創ることができたので、あっと言う間に20分のシーンができた。時間切れで終了したが、まだ先が観たかった。松本の「人間はそう簡単に死なないよ」という言葉が好き。桶の告白までの感情のうねりがとてもよかった。
いい稽古。幸せ。以上。