2013/09/16

台風は通り過ぎ、開かれた稽古場へ。今日の日中の稽古はどこの座組さんも見合わせていたようで、夕方からの座組さんも多かったようだし、皆めでたし。
さて、今回は松本とマイケルの二人の参加。ちょうど「孤児の僕の物語」を書いていたので、ぴったりの人数、配役だった。偶然だが。あれこれとさらによくするため、今回は感情の動きは二人ともスムーズだったので、それを言葉に繋げるための再トライを何箇所か。言葉をそのままに発すること、想念の変わるところ、言葉に飲み込まれてしまわないこと、そのような点をアドバイスしてみた。松本は言葉が劇的かつ無理のないものになって、心に落ちてくるし、聞きやすくなった。マイケルは感情で言葉を押し出すとそのまま走ってしまうので、やはり、切り替えや都度都度イメージをはっきり見ていくテクニックが必要だと想った。叫び過ぎ。アングラ芝居の叫びはあたしは好きだけど、劇的に言葉を提出できるような使い方をしたい。人物を設定したので、作品の中の居心地がよかったようだ。殺人シーンが生々しいままではない流れが欲しいので、それは今後のお願いとして話した。死を軽く捉えていかないことを課題にしている。ラストシーンに様式を入れて書いたら、様式に重心がいってしまった。それは違うと想ったので、伝えた。食事の席でも話して、役者が様式先行に成りがちなことを知り、そうかと想った。
練り上げて、完成させたいと想う成果だった。こういう稽古は手応えを感じて、喜び。
後半は「感情の変化」の課題2連発と「殺意」の連作課題。実はこれはセットの課題である。感情の変化の課題で、役者同士の距離が縮まり、そこからの殺意のシーン創り。2発目は優しさと悲哀に充ちた素敵なシーンが出来た。即興がその場限りではない厚みを産んだ時、やっと劇的なシーンに変化するのだ。
今回の稽古はすべて首尾よく、良い時間だった。
★ 今回の台本、選曲を公開する。
★ 動画は身体表現『蘇っていく記憶』部分。デヴィッドゲッタ

『あなたはだあれ?僕は誰?忘我忘却記憶のラビリンス』
作・演出・選曲 森島、音 DubMasterX ,、出演 松本渉、マイケル・リュー

客電落ちる。
明かりが入る。
人々が考え込んでいる。
お互いの顔を見合わせる。また考え込む。
吊るされた鳥かご。 近づく。
「おまえが鳴かなくなって、もう2ヶ月が過ぎた。2ヶ月?3ヶ月?1 年?三日?、、、、僕の中の時計の針が行きつ戻りつ、クルクル回って いるよ うな、あれ?この鳥かご、空っぽだ。」 振り返ると、1羽のオレンジの鳥が飛んでいる。目で追う。急旋回して空高く飛ぶ。
「まるで空の底を目指すように鳥は飛ぶ。鳥?鳥って何だっけ?え?おい、危な いぞ。その道、地獄へ向かう道!危ない?あぶらかたぶら真っ逆さま の、おま えどこゆく、天井抜けて。僕は、タラップを降りて、知らない国に降り立った。 あの夏、いつだ?」
佇む。お互いに顔を見合わせる。
また考え込む。
「あ、、、」
身体表現。「蘇っていく記憶」使用曲DavideGuettakhttp://www.youtube.com/watch?v=TSNerxNwWtU
言葉「僕はあの日から記憶をなくしていた。そう、あの日、あの日、あの瞬間、あの 思い、あの気持ち、あの瞬間、あの悪い夢。僕の、無くした記憶が蘇 る。今、 ゆっくりゆっくり蘇る。そう、あの日、あの時、あの瞬間。僕の脳みそが引きず り出されたあの日、あの瞬間、あの瞬間、長い長い瞬間。」
蘇った記憶に身をすくめる。記憶から逃げて、記憶に追い込まれる態。
ゆっくりと極めてゆっくりと立ち上がると激怒している。
「え?なんだ、それは。おまえの性根はどこまで腐っているんだ。僕を信じると 言い乍ら、僕をとことん疑っていたわけか。おい、おまえ、僕を笑った な。僕 の失敗だらけの人生を、おまえは笑ったな。僕は僕の過去を封じ込めて生きて来 た。僕はこの世に産まれてくる場所を、選べなかった。おとうさ ん、おかあさ ん、何ですか、それ。帰る家、僕の故郷、何ですか、それ。何ですか、それ。う るさいよ、おまえに、お前ごときに哀れみに充ちた目を向 けられるほど、僕は 落ちぶれてもいない。人生の抜け道をひたすら歩いて、纏った鎧をおまえなんか に、おまえのウソ八百の愛のはりぼての前に脱ぐこ とはない。絶対にない。僕 は、自信がある。僕が積み重ねた人生に自信がある。おい、オレの顔を見てく れ、頼むから、オレの顔をみてくれ。おい、お い、、、ああ、また笑ったね。 君はまた僕を笑ったね。僕が大切にしていることは、愛なんてくそくらえなもの じゃなく、僕自身、僕の人生、僕の満足 だけなんだ。 僕の目をみてごらん。僕の目をみてごらん。僕の、この目を、見てくれよ。」
激高し、泣き乍ら、ポケットから取り出したジャックナイフで女を滅多刺しにする。
刺しては眺め、
刺しては話しかけ、
刺しては叫び、
刺しては泣く。
身体表現。「愛する君へ、愛する僕へ」使用曲 長渕剛「君は雨の日に」http://www.youtube.com/ /watch?v=4zxNtE__2ZE
言葉。「やめてくれ」「哀れみ」「蔑み」「真綿の残酷」「空洞の愛」「肉の 罪」「やめてくれ」「赤くない血潮」「愛の歌」「欺瞞」 「その笑い」「その蔑み」「その哀れみ」「その残酷」
刺す、刺す、次第に言葉を無くして、感情を無くして、記憶を無くして、刺し続 ける。
「死んだね、おまえ。さようなら」
感情がわき上がる。号泣する。「死んだね、おまえ。ざまあみろ」
「僕はまた記憶を無くした。記憶を封じ込めた。ここから逃げて、もう一度生き て行けばいいだけのこと。」
オレンジの鳥が飛ぶ。 目で悄然と追う。佇む。
お互いの顔を見合わせる。佇む。
「エアーチケットの手配をする。そうそう、高飛びっていう鳥のように。」
徐々に徐々に記憶を無くしていく。 お互いに顔を見合わせる。
「おい」
「え?」
「おい」
激しく打ち震える。
「何を見たんだ」
「え?」
沈黙。
「何も」
「何も知らない」
安堵と笑い声。
「オレンジの鳥が空高く飛んでいく」
暗転。
客電。

以上、