2013/12/16

開かれた稽古場より帰宅した。ニューファンドランドという種類の犬が飼いたいと想っていた時期があった。渋谷で任侠なおじいさんがニューファンドランドを連れていて、「あたしも飼いたいなあ」と話しかけたら、「一日中家に居られるのか?」と訊かれ、「いえ、仕事をしているので」と言ったら、「一日家にいられるばあさんになってからにしろ。一日東京の西から東まで散歩してやらなきゃだめだ」と一喝されて、諦めた。稽古の帰り道、大きな黒い犬に逢った。「この子はなあに?」と訊いたら「ニューファンドランドです」と。少し小さめの子だそうで、飼いやすそうだったなあ。また飼いたくなって、帰路についた。さて、稽古はとても成果があった。どの役者さんにも何かが開く瞬間が訪れる。今回は桶がはじめてポロポロと泣いた。泣く、という表記の多いあたしの本。その涙はさまざまな感情からの涙である。泣こうとして泣くのではなく、ある感情の結果の涙は劇的である。
信頼する女優さんの紹介で1回参加していた中澤くんがキラキラと目を輝かせて「やっと来られました」と参加。彼は初回から開いたので、好感触を得ていた。再訪は嬉しかった。さらに、今回は全編に迷いが少なく、いい成果を得た。
ウソの世界、虚構の世界で活きてくれる想像力。それが一番劇的で心が動く。
今回は作品に入る前に「歩く」のシーン。これはあたしも参加した。音と感情の交換のための課題。身体を感情のままに動かすための課題。音のDubちゃんが曲を変えてかかってくれたので、愉しかった。ただ、ふたりの役者さんの身体と感情がちぐはぐで失速してしまうので、シーンとしての完成には届かない。
また挑戦しようね。
作品はよい仕上がり。特にラストの詩のシーンが感情とメッセージの碇の下りた表現となって、とてもよかった。その部分だけがうまくいったのではなく、そこまでの流れに淀みがなかった結果だ。
身体表現をもっとスタイリッシュにしたい。感情に流されてしまうのではなく、それを身体にもっともっと載せた身体の表現にしていきたい。それを次のステップとして話す。
後半は「修羅になる」感情のピークを身体表現に転移する課題。3本。
2本めは動きをつけて、シーンを広げてみた。まだ形を抜けきらないので、
まず感情を瞬間発火させられるようになりたい。
最後は相関図からのシーン創り。今回は感情が激しく打ちのめされる運びを仕掛けてみた。2人ともよい反応をしていた。この感情の振れをそれぞれが感じて持ち帰ってくれればいいな。
作品、使用曲公開する。
☆ 今回は音による会話部分。
『両手広げて飛びたくて、あの空いつかの夕焼けこやけ、もがれた夢が哀しくて。』
作・演出・選曲 森島、音製作、音 Dub 出演 桶谷健司、中澤健太郎

客電落ちる。
真っ暗。 ノックする音。ノックする音。ノックする音。
明かり入る。両手を広げて佇む人々。ノックする音。
「僕の(あたしの)心を誰もが覗こうと近づいてくる。僕に優しい声で話しかけ る。僕に笑いかける。僕に触る。」
激しく手を羽ばたかせる。
「どこへいくんだ。」
「こっちへ来いよ」
広げた手で近づく男を殴る。女を殴る。笑う。激しく怒鳴る。
「それ以上、僕に 触るな。僕をいじめないで。」
ノックする音。「やめてよ」
「あの日、外は綺麗な夕焼けだった。僕は学校の帰り、楽器やさんのショーウイ ンドーを眺めていた。欲しいな、これ。欲しいよ、あれ。あのギターを 弾ける テクニック、あのギターに似合うルックス、あのギターが買える金。」
ノックする音。「うるさい」
ノックする音。「なんだよ」「やめてくれ、やめてくれ」
身体表現。「時代に両手を握り拳にしてみたら」使用曲 ドンキーコング
http://www.youtube.com/ /watch?v=CF61eh7dmSc
言葉。「不自由」「規制」「がんじがらめの時代」「夢は闇」「言葉は闇」「人 間のロボット」「凍る脳みそ」「痺れる舌」
放心して佇む。
両手を広げる。両手を握る。激しく抵抗する。
「小説を書いている父が逮捕された。言論の自由だと父は静かに言った。表現の 自由だと父は静かに言った。」
「冗談でしょ?冗談じゃない。父を返せ。」
父にすがる。突き飛ばされる。 羽交い締め。抵抗。激しい暴行。やがて、静かになる。
「痺れる足」「痺れる手」「言葉が出なくなる。」「脳みそが痺れる」「恐怖を 超えたおぞましい体験」
立ち上がり、両手を広げる。
「新聞も届かなくなって、テレビ画面も真っ黒になった。」
歩き出す。「のっぺらぼう」
すれ違う人々。「のっぺらぼう」
すれ違う人々。「涎をたらした人々」
すれ違う人々。「笑えよ」「怒れよ」「泣けよ」
歩く姿が魂を抜かれた態になっていく。
「町中に転がる無惨なプラカード」「痺 れる舌」
身体表現。「僕の心が溶けてしまわないうちに」使用曲 KANABOON「ないものねだり」
http://www.youtube.com/ /watch?v=UgS7vgquBvo
言葉。「ねえ」「ねえ」「ねえ」「だるまさんがころんだ」「ねえ」「ねえ」 「ねえ」「うしろのしょうめんだあれ」「ねえ」「ねえ」 「ねえ」「君が好きだよ」「あいしているよ」
佇む。
言葉が出ない。音の会話。
両手を広げる。両手が痺れる。
両足が動かなくなる。
走る。転ぶ。走る。転ぶ。
「殺される。」
立ち上がり、両手を広げる。拳を握る。連打。激しい抵抗。
「国家への挑戦状を叩き付ける」
身体が動かなくなる。「表現の自由」 「あばく自由」
両手を広げる。
「僕は飛ぶ。表現に向かって飛ぶ。」
幼い子供達が箱に閉じこめられている。
驚愕。嘆き。抱き上げる。「笑って」「泣いて」
嘆きと抵抗の叫び。
身体描写。http://www.youtube.com/watch?v=VF22uLrqmGk
使用曲 MUNETAKA HIGUCHI ドラムソロ
この子らの果てしなき夢の先には 灰色の未来の残骸が転がる。
暗黒の未来の残照が光り始める。
そのために今、我らは立ち上がれ、唱えろ。
抹殺されていく未来を放置するな。
両の手を広げて、飛べ。
封じられるクチ、麻痺していく脳みそのくそったれ。
この子らの夢は、立派な兵隊になることではない。
僕はギターを買う。
僕の抵抗を奏でるためのギターを弾くのだ。
暗転。
明かり。
「表現の自由、言論の自由。知ることの自由。」
ゆっくりと歩き出す。振り返る。 観客席に。
「僕らの夢は僕らの自由。」
両手を広げる。佇む。
暗転。
客電。

以上。