2014/3/10
どうしたの?この寒さと言い乍ら、稽古場から帰る。公演が近い役者たちが稽古休みだそうで、三人参加。来週から稽古入りの役者は稽古入り前に参加。
そんなメンバーの稽古場。今日は東京大空襲、明日はあの大震災から三年目。歴史や社会への無関心は、芝居を創る者としてダメだ。折に触れ、史実には触っていくように心がけている。というわけで、今回は喚起と問題提起の作品を書いた。いわば、芝居は「他人事」を舞台にのせるものだからこそ、実感や想像力を鍛えなければならない。テーマが重ければ重い程、片手間に演じるべきではない。そんな想いで書いた1本。
まずは、「怒り」の感情を抱えて歩く。今回は怒りをぶつけあう「静止」を入れた。指示を飛ばし、煽っていくが、なかなか怒りは上がっていかない。待っていてはダメ、いつまでも動き出さない、進歩はない。果敢に挑むことしかない。動かないシーンはつまらない。だって、あたしが動かすことがあたしの目指すものではないのだから。まず、「何に対しての怒り?」その肝心要が欠落していたのではないか。
続いて、ダンスバトル。音がちょい難しかったよね、Dubさん。と後でお願いしたのだが、まず、躍ることを楽しめる音をよろしくね。それにしても、かっこ良くない。舞台の上の身体は「かっこよく」ね。日常でもたくさん躍って。音を聴いて、身体に音を流してほしいなと想う。
今回はかならず「想像すること」「実感すること」をして欲しい作品なので、まず作品を説明してから、インターバルを入れた。休憩後、作品を創る。それぞれに実感が弱い。それぞれの課題は、それぞれに話したので、作品をどうぞもう一度、読んでほしい。それから、本を読み、映像を観、己の中の資料を増やすことも役者としての刺激になるはず。世界を広げることだ。
演じる側に「ほんと」が濃くなければ、観客席は揺らせないんだよ。現実として苦しんできた、そして、未だ苦しんでいる人々がいる。その現実を冒涜することにならない芝居が創りたい。
うーん、帰り道想った。これは心をグラグラ揺らして、もう一度創りたい。松本、待ってるわね、(笑)今回創った参加者たちは近いいつかもう一度創るので、それまでに想像の糧を増やしておくこと。
作品と使用曲を公開する。観客席の皆様も読んでください。
★本日の動画。身体表現。「今日は何の日?歴史の記憶の闇の中。」使用曲 King Crimson 「エピタフ」部分。

『空から降り注ぐ吐瀉物に塗れても、生きていかなくちゃと姉さんは言うのだ。』 作・演出・選曲 森島、音 DubMasterX 出演 桶谷健司、村上麗奈、やすいなおみ、谷野マリ子 撮影 花

客電落ちる。
暗闇。悲鳴。
明かり。
刺された男をじっとみている。男、動かなくなる。
我に返り、走りだす。恐怖で足がもつれる。振り返る。
ナイフを持った男が走ってくる。立ちすくむ。
男が髪の長い女の髪を掴み、刺す。人ごみに紛れて覗く。
沈黙。
「あたしの(オレの)回りを悲鳴が包む。怒声が耳を抉る。いきなりナイフで刺されたら、どんな痛さなのだろう。
かわいそうに、、、ああ、よかった、あたしじゃなくて。あれ、もうこんな時間、遅刻しちゃうわ。まったく、とんだ災難。
え?災難?そうよ、くだらない、無駄な時間じゃないの。ああ、足が痛いわ、無駄に走ったから。」
歩き出す。足を誰かがつかむ。進めない。
腕を誰かが引っ張る。「やめてよ」「やめて」(「やめろよ」「やめてくれよ」)
我に返る。急ぎ足で歩き出す。サイレン。
身体に衝撃、目の前が真っ暗。耳が聴こえなくなる。あたり一面、火の海。
「何?これ?映画の撮影?うるさいわね、サイレン。」
「地面を火柱がなめる。どす黒い赤の大蛇がぬめぬめとものすごいスピードで走っていくような火柱が動く。耳をつんざく轟音、爆音、
何?これ。今日は3月、春近し。え?戦争?やめてよ、興味ないわ。早く、やめてよ。」
火の海の中で、叫び続ける。
身体表現。「今日は何の日?歴史の記憶の闇の中。」使用曲 King Crimson 「エピタフ」
http://www.youtube.com/watch?v=Hiw1gg76nzQ
言葉。「 東京大空襲第二次世界大戦末期にアメリカ軍により行 われた、東京に対する焼夷弾を用いた大規模爆撃」「東京」「戦争」「アメリカ」「数多の(あまたの)死体」「母さん」「あたし」「オレ」「焦げる」「見えない」「大きすぎる傷跡」「やめろ」「やめて」
身体中を焼かれ、のたうつ態。我に返る。
「テレビの画面がバラエティー番組に変わっていた。刷り込まれるような、毎回おんなじ繰り返しのドキュメンタリーをあたしは(オレは)ビール片手 に観ていた(のよ)。ああ、よかった。あたしじゃなくて。え?だって、そうでしょ。みんな、過去の出来事じゃん。つまんない
。あ、もうこんな時間、お風呂に入らなくちゃ。明日は休みだし。」
歩き出す。抽き出しをゆっくり開ける。
隠れるように、腕に注射を打つ。
震える。ガタガタと震える。「早く、早く、早く、オレを(あたしを)ハッピーにしてくれよー。」
鬼の如き様相。
「ハッピー!」繰り返し、躍り出す。
唐突に笑い乍ら、崩れ落ちて、眠る。
床が突き上げるように動く。飛び起きる。「なによ、これ。効き過ぎちゃって困るわ。」
天井に向けてグラスが飛んで、割れる。いくつもいくつも。冷蔵庫が倒れる。
立ち上がる。しかし、歩けない。窓を開ける。
うねるような水が押し寄せてくる。
「海?窓の外に海が広がる。海が壊れて、牙をむいて近づいてくる。ウソ、やめてくれよ。来るな。(来ないで)
海の化け物。」
必死に階段を降りようとするが、階段は牙をむいた水の怒号にへし折られる。
水に呑まれる。
足掻く。気を失う。
目覚める。「あれ?テレビ、消し忘れたわ。また、震災特集?よかった、東京で。もういいんじゃないの?三年も経ったのに。
つまんない。」
立ち上がる。しかし、崩れ落ちる。
「身体中が痛い。あれ?」
指先の捲れた皮をひっぱると身体中の皮が剥けはじめる。
「何?これ、痛い。」
のたうちまわる。
身体表現。「どうせ、どうせ、どうせ」使用曲 Chloe Agnew performs '「Panis Angelicus,」
http://www.youtube.com/watch?v=nzTjY79nGRE
言葉。「心の奥」「思い出せない記憶の奥」「痛み」「心の残忍」「聞いたはずのない声」
放心して、佇む。
「え?今、何時?ここは、どこ?あたしはこんなに老いて、こんなに小さくなって、こんなに無力なままで、
ここにいる。目覚ましが鳴っている。起きなくてはダメね。起きて、歩いていかなければ。」
極めてゆっくりと歩き出す。
極めてゆっくり。時が止まった如く、ゆっくり。
警笛。
足が竦む。「あ、あのひと、、、」
女(男)ホームから跳ぶ。
沈黙。
暗転。「また人身事故。やだわ。遅刻しちゃう。、、、、、あれ、オレ?(あたし?)
    ダメじゃないか(の)。痛いなあ。ものすごく、痛いなあ。」
明かり。
無表情に佇む人々。
「生きていかなくちゃ」
「そう、そのつもりだったのに。」
「吐き気がしたの。あたしの中の吐瀉物に。」
「やだわ。(やだな)」
暗転。
客電。

以上。