2014/8/04
夏日。直前に稽古場から連絡が入り、いつもの稽古場が使えないので、他のスタジオと言う。発声はともかく、開かれた稽古場はいつもの稽古場を死守してほしいものだ、と思う。でも、ま、稽古ができればいいかと我に言い聞かせ乍ら稽古場へ。大手のプロダクションさんのお名前が書かれていて、「ま、そんなもんか」と諦める。オフオフの空間で観客席に伝えて行く芝居だし、丁度いい。
偶然の必然かしら。稽古場のそばに「一幕」というらうめんやさんがあって、縁起がいいね、と言い乍ら二度ほど行ったことがある。今日はうどんが食べたくて、皆でマイケルが検索で見つけてくれたうどんやまで歩く。と、「一幕」さんがうどんやさんに変わっていて驚く。名前は一幕のまま。念願のうどんが美味しくて満足。さて、開かれた稽古場。参加5名、見学1名。
今回は実感をすること、想像をすることに特化した課題から。「歩く」哀しみ。今回は歩き、7人の死目に合っていく。手を入れたら、また歩き出す。やがて、亡くなった人々が同じ空間を歩いている。共に歩く。そして、亡き人々は消え去る。頽れ、声を出さずに身体で「泣く」
どれだけはっきりと想像して、見ていけるか、どれだけ実感していけるか。誰の死目であるのか、なおみのイメージがだんだんと弱くなっていたことが少し気になった。切り替えた後に残る哀しみの感情の処理、切り捨ててしまうことはないかもしれない。これはあたしも探り中である。松本もマイケルも串間くんも深い激しい哀しみで、こういう感情の動きはこちらの心を揺さぶる。指示を出しているうちにこみ上げて来て困った。麗奈もイメージしていけるようになってきたが、一旦泣き始めると、泣くことに向かってしまう。それは違うのだ。
続いて、「煽る」お互いに煽り合う。心に反応が起きたら、身体を反応させていく。ペアから静止を入れて、全員の煽り合いまで。人間の面白さ。頽れ乍らも挑む。そして、煽る。そして、またダメージを受けて崩れる。予定調和とならない、面白さ。最後の麗奈が鈍かったなあ。まず受けて、そこで保つ。立て直す。敏感でなければいけない。出演している役者さんたちは笑ってはいけない。これ、観客はきっと笑うが。
さらに懇願。歩き乍ら、懇願する。哀願する。お願いする側は相手に受け入れてもらうための、される側はそれに対する反応をしてほしい。最初にネタに走らないようにと話して始めたが、反応を決めつけてしまうとつまらない。ラスト2本は「激しく拒む」、なおみも麗奈も緩い。相手がもうだめだと思う拒絶がほしいのだ。蛇足だが、串間くんはよく話をきき、2人の女優相手に些少ではないお金を貸してしまいそうだった。女優陣がしたたかに見えたのは、気のせいだろうか?笑。綱渡りの切迫感が、張りつめたものが加わるともっと面白いシーンとなるだろう。
今回は感情の動きを丁寧に探ってみた前半。よって、ダンスバトルはなしで、作品へ。公演も念頭に置き始めたので、本日の作品は正味50分。台詞がトントンと進んでしまった部分があり、それでも45分弱の作品に挑む。
未来の子供たち、せむし男であり、蛇女である。哀しいジンタの幕開けで、物語は始まる。今、これを上演することを念頭に書いているので、観客席に無関心の害を、所詮他人事の害を問いたい。細かく稽古を重ねるとして、観客席に落としてほしい言葉と人物の言葉について、話をして終わる。
作品と使用曲を公開する。
★ 動画は、身体表現「バラードが耳の奥を刺すのだ」
YMO『テクノポリス』部分。


『僕の幸福論を高らかに胸に響かせ恍惚として。』
作・演出・選曲 森島、音 DubMasterX、出演 松本渉、マイケルリュー、村上麗奈、やすいなおみ、串間保 撮影 花

客電消える。
せむし男と蛇女。ジンタと時折の明かり。使用曲「美しき天然」http://www.youtube.com/watch?v=GXgkpTmpA80
明かり灯ると観客席を凝視して佇む。
つぶやく。 (1) 空にさえずる 鳥の声
  峯(ミネ)より落つる 滝の音
  大波小波 とうとうと
  響き絶やせぬ 海の音
  聞けや人々 面白き
  この天然の 音楽を
  調べ自在に 弾きたもう
  神の御手(オンテ)の 尊しや
男「僕の身体が、目が覚めると少しずつ気がつかないほどの少しずつ歪んでいった。母は僕を抱きしめて泣いた。
僕を抱きしめて泣いた。僕は、歩いた。こうやって歩いてみた。踊るように歩いてみた。父が僕を見た。父は
僕を遮るようにドアを閉めた。僕の身体がこんなに歪んだ。母は僕を抱きしめて、僕を抱きしめて、つぶやいた。」
女「なんて?あんたの母さんはなんてつぶやいたの?」
男おどけて笑う。おどけて軽やかなステップ。
女「あたしは産まれたときからざらざらの赤ん坊。ぬめぬめの赤ん坊。いくつになっても歩けなかったの。
だからこうして這い回る。お母さんは居ない。お父さんも居ない。あたしのそばにはだーれもいないの。」
暗転。明かりIN。
男、女佇む。
「東京の空、激しい雨が降る。東京の空、稲妻が光る。東京の空、キラキラとした涙のつぶが見える。
東京の空、血みどろの歪んだ奴らが牙を剥く。東京の空、弥生三月渦巻いた。東京の空。僕を押しつぶすようで、
こわいんだ。」
「東京の空、青いじゃない。東京の空、綺麗な白い雲。東京の空、広がる。東京の空、お月様が翔ていく。
東京の空、歪む。東京の空、血みどろの空。夕焼けの空に稲妻が走る。東京の空、あたしの毎日を変えてしまうようで、
あ、虹。最後の足掻き。」
男、手を伸ばす。
女、手を伸ばす。
「僕は(あたしは)太陽に手をかざして幸福論を唱える。叶いもしない夢をみて、叶いもしない幸福を求める。」
「欲望」
「身体がヒリヒリする。どうしようもない危機感に、貪るように。」
男、女を誘う。
女、男を誘う。
男「オレは不安を埋めるように、街に出て、女を求めた。」
女「あたしは壊れていく心を縫い閉じるように、街に出て、男の誘いにのった。」
身体表現「幸福論。誰かを愛するふりをして、心の焦燥を埋めるべし。」
使用曲 高木麻早 「ひとりぼっちの部屋」
https://www.youtube.com/watch?v=NSMWy9nhoFc
言葉。「誘って」「誘われて」「いこうよ」「早く」「もっと」
「もっと」「こっちにおいでよ」「愛してる?」「愛してるわ」
「愛してる?」「愛してるよ」「こっちにきて」「こっちに来いよ」
「いい気持ち」「いい気持ち」
男、女恍惚の表情で佇む。
雷鳴。「ほら、みて、稲妻。美しい幸福。空がかっ捌かれて、空が大きな口を開けて、銃器を降らす。
銃をとれとけしかける。とっとと世界を終わらせろ。」
「欲望に溺れる、欲望、欲望、枯渇してゆく世の中で欲望すらも枯れていく。
貪る、貪る、空が赤く染まり、空が稲光に覆われていく。
真空のつかの間。真空の逃避のために、オレは(あたしは)欲望に狂うしか術はない。」
暗転。
妊婦。せむし男。明かりが閃光の如く照らす。
女「稲妻の舞う東京の空の下、あたしはこどもを身ごもった。
稲妻の子供。恐ろしい。」
男「オレに子供ができたって?オレの身体はこなごなで
オレの脳みそこなごなで、ほーら、欲望のなれの果て。」
身体表現。「パラードが耳の奥を刺すのだ。」
使用曲 YMO「テクノポリス」
http://www.youtube.com/watch?v=puZaBw1vGqU
言葉。「どうせ遠くの国の」「どうせ過去の歴史の」「戯言」
「うかうかと過ごす」「うかうかと知らん顔」「この国には」
「無関係」「問題外の外の外」「守り守られ」「隠し事」
妊婦重い足取りで歩く。
せむし男、おどけて歩く。
「稲妻の乱射」
妊婦、産気づく。
悲鳴に似た叫び。「産まれてこないで」
暗転。
せむし男、蛇女。
「僕たちは(あたしたちは)東京の、日本の、隠し事の
欲望の、犠牲になって、こうして産まれてきた。」
「お母さんは僕を(あたしを)
閉じ込めた。」
「ほら、聴こえてくる」
「あちこちから、聴こえてくる。死んでいない僕たちの(あたしたちの)
ウソまみれのウソだらけの、」
「葬式」
「もはやこの世は人間の、形をなくした人間の」
「人間?」
「僕、人間?閉じ込められて棄てられて、僕、人間?」
「あたし、人間?ざらざらでてかてかで、あたし、人間?」
嗚咽。呻き。
「葬られたヒトガタの遺産。」
「お父さんはドアを開けて出て行った。お父さんはそのまま。
ジンシンジコと封印された。」
「あたしの(僕の)ウソの葬式が終わって、人々がウソを抱えて歩き出す。
お母さん。お母さん。僕(あたし)生きているよ。ここにいるよ。」
「お母さんがドアを開けて、入ってくる。」
せむし男、蛇女、歓喜の声を上げて、母にすがりつく。
「お母さんは一瞬だけ僕を(あたしを)抱きしめて」
「出ていく」
暗転。
「あの日からずっと降り続けていたキラキラとしたもの。
身体中に突き刺さって、
世の中を黒く塗り潰した。」
明かり。
男、女しずかに放心している。
「恍惚と幸福論と欲望」
「身体中が壊れていく。」
「世の中が溶けていく。」
「いつでも歴史のしくじりは、幸福論を塗り潰すのだ。」
暗転。
「僕は(あたしは)閉じ込められた暗い部屋で聞いた。
お母さんの、本当のお葬式。」
「お母さんは稲妻の光に刺されて死んだそうだ。」
「あの日の東京の空の、」
長い沈黙。
客電

以上。さらに重ねていく。今回は松本、マイケル、串間くんのさらなる一面がみえて男優陣良かった。女優陣の芯と色気がモア、モア。精進のみ。