2014/9/8
しとしとと秋の雨。開かれた稽古場より帰宅する。本日参加の女優2人、夏の疲れも出てくる時期なので、身体に優しい雑炊を皆で仲良く食べてきた。美味しかったね。
稽古は身体表現の基本を今回はやろうと想って構成した。通常は作品創りの中で身体表現、言葉あり、と稽古するので、なかなかピンとこないようだな。身体表現だけを少しやろうかしらん。この稽古場をはじめて2年くらいは台詞や身体表現を別立てで稽古していた。繰り返していくことで動けるようになっていった。その経験値を活かしてみた。
まずは、歩く。心と身体を繋げるための課題のひとつ。肝心要は心を動かし続ける事。今回は「対立する」女ふたりの対立。ついつい表現してしまうので、それらを少しずつ削いだ。基本はリアリズムである。様式が先行していくと心の機微は見えなくなる。何度も止めて修正、距離を埋めることで対立を見せようとしてしまうので、距離を離す、離れるを指示、次第に心が動いていった。
さらに距離を取り、身体表現、対立ができてきたところで距離を縮めて言葉による「対立」に導く。
それぞれにアドバイスしたので、割愛。
続いて、身体表現。音との共存、音の中で自然に身体を揺らめかしてみる。踊らなければならないではなく、音に身体を委ねて動いてみる。説明をしてスタート。2曲.。堅さが抜けて2人とも成果あり。音を聴く身体を養えれば」いいね。
後半は過去作の中でさらに「身体表現」を探ってみた。心が壊れていく作品。オープニングは狂ってしまった人々。なぜ人々がこのようになっていったのかは後半にわかる。途中で説明も加え乍ら、長い台詞の意味、状況も説明しながら繰り返してみた。各自のスマホに「召集令状」が届くわけだ。町の人々が一瞬にして変わっていく様。召集令状を反故にした人々は拉致されて、冷蔵庫の部屋に収監される。その中極限状況の中で人々は動けなくなり、発狂していく。
それでも叫び、つぶやき続ける。「戦争反対」
女優2人に話した。これから男の女も戦争にいかなければならない時代がくるかもしれないよ、と。収監された中で赤い桜の幻を見る。赤い桜はつり下げられた人間たちに見えてくる。
数年前に書いた作品だが、作品を公開しておこう。
途中2曲の身体表現。作品の中で「その気持ちのままで」と要求した。身体表現の課題の時のように自由にはなれなかったが、三すくみの状態ではなくなって効果はあったと感じた。
なおみは台詞が弱すぎるので、はっきり駄目と言っておいた。拍車がかかるといいな。千景もたまには精進ね。ふたりとも今後つかこうへい作品に挑むそうである。今後も基本訓練を丁寧にやることも意義ありかな。人数が少なめの時に丁寧に応じてみたいと考えている。
★本日の動画は作品中の身体表現少々と歩く終盤部分を上げてみる。

「あれからの風景、あれからの残酷、桜が散るので、血が飛び散るのか」
作・演出・選曲 森島、音、音製作 DubMasterX
出演 藤川千景、やすいなおみ

客電落ちる。
明かりが入る。狂人なり。「桜が咲いている。ピンクの、深紅の、真っ赤な桜。」
「真っ赤な桜が見えたのは、この身体をナイフで切り裂いたから。」
笑う。笑い声に追い込まれていく。笑い転げる。弾かれて立ち上がる。
「鉛のようだ。身体が重い。僕の失敗、僕の後悔、僕の傷跡、僕の、真っ赤な桜の木、ほら、あの桜の木。桜の枝に真っ赤なトマト、トマトは丸い、丸 いは人間。まんまる人間のぶら下がり。ほら、ほら。あの人たちを助けなければ。戦闘開始だ、ほら、ほら、ほら」
くねくねと身体を蠢かせて唄う。
「貴様とオレとは同期の桜、 同じ兵学校の庭に咲く 咲いた花なら散るのは覚悟 見事散り ましょ国のため」
ケタケタと笑う。「迫る、ショッカー、地獄の軍団」ケタケタと笑う。
「おうおうお。真っ赤な桜だ、おうおうおう。あの人間達を救い出さなければならないのよ。いやん、バカん。おい、おい、おい、戦争よ平和、平和の ための戦争。うそつき、きつつき、狐憑き。おうおうおう。僕は戦争には反対なのです。国を挙げての乱痴気騒ぎの戦争の僕は、戦争に反対なのだ。」 ケタケタ笑う。叫び声を上げる。
身体表現。「僕の世界のあやとり世界」使用曲 Dub曲
言葉。「ネジの外れた僕の宇宙」「僕自身の解体」「僕自身の建設」「あれから」「それから」「ここはどこ」「僕のハードディスク」「僕の宇宙は透 明」「真っ赤な桜」「散りゆく僕の桜の木」「粉々」「バラバラ」「僕の宇宙」「宇宙規模の破滅」
次第に狂っていた心から魂が抜ける。ぼんやりと佇み、覚醒する。それはあの日に戻るが如くでありたい。
ゆっくりと後ろ姿になる。足踏みする。
「また」手を振る。
「またなと大学の頃からの友達と別れた。くだらない飲み会に参加して、それでもそのくだらなさがとても愉快だったな、と思い乍ら、僕は地下鉄の階 段を降りていた。いつもの癖でスマホをいじりながら。あいつはいつまで芝居なんてやってるんだろうとあいつの、あの頃から変わらない幼稚な笑顔を 少し、羨ましいと酔った頭が思った。今の僕には妻と、たまに逢うお気軽な女友達と、ときどきパパを怪訝にみる、ような気がするだけかもしれない、 娘と、僕をまだまだ凄いひとと思い込んでくれてるであろう小学生の息子がいて、
ああ、そう言えば、先月バレた浮気。妻は黙ってしまったけれど、あれ、もういいのか?いいよな、バレてしまったんだから。メールが6通。たまの休 みくらい、仕事の話はやめてくれよ。開封するのは後にしよう。開封されない6通の手紙か。ホームはいつもよりは浮かれていて、そこここにざわめく ような人々の群れ。いや、孤独な人々の群れなのかもしれないな。あれ?あの男が小さく悲鳴をあげた。あれ?あの男も、あの男も、あの男も悲鳴を上 げた。電車のドアが開いたので、僕は乗り込んだ。あ、プリン。パステルのプリンを買ってくるね、と出がけに言った。僕は言った。忘れた。すっかり 忘れてしまったな。ああ、またか、と娘は僕を諦めた顔で見るだろうな。しょうがないさ、パパはうっかり忘れたんだからな。座っている男が、悲鳴を 上げた。つり革に寄りかかるようにしている男が叫んだ。電車の中のそれぞれが動き出した。真っ暗な地下鉄の窓に頭を打ち付けて、女たちは狂って行 く景色を怯えた顔を寄せ合ってみている。いつもの風景が音もなく歪んだ。ゲンダイ社会の縮図ってやつか、と僕はポケットからスマホを取り出し、男 の個室、誰にも知られたくない僕の異常な性癖のサイトを眺めて、ニヤニヤした。いや、極めてニヤニヤは表に出さず、心の底からニヤニヤした。男の 悲鳴。男の悲鳴。男の悲鳴。え?車内はどこかおかしな悲鳴と無表情の残酷。鳥肌が立った。ニヤニヤしながら、鳥肌がたって、身体中が痒くなって来 た。」
電車を降りて、階段を昇る。街頭。
あちこちで神妙な顔をした男達。スマホを道路に投げつける男達。スマホをじっと見つめる男達。
泣き崩れる男達。
メールを開く。
「明日、明日」
「お、しばらくだな」
表情が固まる。叫ぶ。悲鳴。「召集命令!」悲鳴の連打。小さく、小さく、悲鳴のリズム。
身体表現。「戦争反対でございます」
使用曲 椎名林檎「幸福論」
言葉。「メール」「六通の3通目」「戦争にいけと」「言葉の暴力」「国家の強制」「風景の終焉」「戦争」「全面戦争」「拒否」「なぜならば」「なぜならば」
足踏みする。ドアを開ける。
「ただいま。パステルのプリン、忘れたあ」笑顔。
暗転。
明かりカットイン。
身体中を縛られる。抵抗。
引きずられる。
暗転。
明かりカットイン。
大きな冷蔵庫に放り込まれる。身体を縛られたロープを覆面をした男達が切っていく。
開放された身体。
そこは冷蔵庫。大きな冷蔵庫。冷たい部屋。閉じ込められた男達。
「僕は戦争にいかなかった。」「僕は幸福論を持っていた」「僕は当たり前の日常を選びたかった」「僕は」「僕は」「僕は」
冷たい世界。狂っていく男達。
「真っ赤な桜が散って行く」
「あれからの僕のみるたったひとつの繰り返される風景の中には真っ赤な桜。ぶら下がっているのは、人間だ。血まみれの人間なのだ」
長い、長い悲鳴。
暗転。
「真っ赤な桜」「貴様とオレとは同期の桜」へらへらと笑う。悲鳴。
「真っ赤な桜」「人間の存在理由」
客電