2008/09/29
それでも君は芝居を続けていくのか


雨の降る寒い日だった。いつものように稽古場に向かう。リンカンの製本の打ち合わせに案外の時間がかかり、稽古場到着2分前。稽古場はきれいに掃除されて、防音の装置も参加者の手で終わっていた。
本当なら稽古場の掃除やら靴の揃え方やら備品の使い方から挨拶の徹底までちゃんとしていきたいのだが、皆の「自由」を尊重して、あたしは何も余計なことは言わないでいる。職人気質に見て覚えて下さい、と自らで掃除をしたり、装置を立てたりするようにやってきた。自然に稽古参加者たちがこういう準備をしてくれるようになった。嬉しい。
人としての常識、稽古場や劇場への敬意、座組の人々への、スタッフへの思いやり、まずはそこからじゃないか、とあたしは想う。
雨が降ろうが、槍が降ろうが、風邪をひこうが、稽古場にやってくる仲間は信頼にたる。
開かれた稽古場、参加者6名、見学1名。久しぶりの参加者あり。稽古場にあたし好みのかわいい女優さんがいて、はじめてここに来たときの印象とぜんぜん違っていて、驚いた。半年の間に彼女には大きな変化があったのだろうか?
そこにいること、舞台の上に「存在する」こと。それぞれの俳優の魅力がにほい立つようになっていこう。
まず、そんなところから稽古を開始した。連続したシーンを考えてみた。俳優自身の開放を考えたシーン。
アクティングエリアに、明かりの中にただ登場してくる。ただ、そこに立つ。一人ずつ。全員アクティングエリアに立つ。間。それぞれが観客席を想定して、言葉を投げる。暗転(手)他者と会話をし、エリアを共有する。暗転(手)、明転(手)で壊れる。以上のシーン創り。
ただ、エリアに出てくることの難しさ。まず、俳優自身としてのあり方がよく見えた。Aさん、自身の魅力をよく知っている。よい。Mもと、存在感がかなりはっきりしてきたのだが、観客席に対しての働きかけがスムーズではない。自身に碇をおろせばいいのに。まだ何かをしなければの束縛を感じる。N山さんは動きに連続性がない。普通に歩き、普通に立てばいいのだが。U杉くん、面白い。しかし、皆お客様に対して正対しようとする。もっと自然に、ありのままに。アクティングエリアで迷いが見える。Kさわくん、少しづつ面白い存在感が出ている。自信のなさがあなたを不安定にみせる。肝を据えて。Kたろうくん、ずいぶん安定してきたが、日常的な目がだめ。あなたがいるのは舞台の上だということ、言葉では伝えにくいが、これ重要。Kちゃん、自然で女優然としてきた。もっと大きな花になりたいね。細かい動きはいらないと想う。全員きっかけによる切り替えがゆるい。瞬間的にシーンを変えること。
何度か繰り返す。途中に観客席を煽るという課題を入れる。観客席にはお客様の数だけの人間がいる。その誰に言葉を、あるいは態度を投げるのか?これはあたし自身も考えていることであり、そうそう、簡単なことではない。しかし、煽ってやるぞ、というまずは気概からだ。Mもと、やろうとしていることがまだできていない。できてほしい。Aさん、ふてぶてしくていいが、声が弱い。その気概を舞台の上で成立させたい。U杉くん、この俳優の強がりや弱さが見えてしまう。人のキャラクターがいろいろ。そのそれぞれの中での開き直りがほしいってことだ。怯まない。迷わない。K太郎くん、思い切りが足りない。Kさわくん、もっともっとだ。なかなかいい。まずはストレートでいい。変化球はいずれ投げることができる。ストレートの球速をあげるんだ。強い球を投げて。(それにしても、巨人、ふがいない。がんばれ。余談。)Kちゃん、さて上品なんだな。どうしましょ。連続した破壊。壊れてほしい。Mもとだけ。
続いて、感情の訓練。満たされた想い。心を満たす。にじみ出るものがほしい。心を満たす。難しいらしい。はっきりしない。さらにさらにと続ける。Aさん、心からあふれる笑みじゃない。お人形のような笑顔はいらない。こころ。Mもと、こういう感情が苦手。反骨精神はいいと想うが、心からの喜びや感動、これも持とうよ。捨て身で飛びこんできても、受け止める人はいるものだぜ。
Kちゃんは見えているものはいいのだけれど、心が少し埋まっていないように感じたな。U杉くん、しだいにいい笑顔を見せていた。心が温かそうで好感。Kさわくん、実にあどけないいい顔。N山さん、笑顔がさびしい。心を満たしてね。K太郎くん、まだまだ何かをしようとしている。
こころ。
手を打ち、演劇的に会話。それそれに心を埋めているものが弱いので、相乗効果を生んでいかない。お互いに刺激しあい、あがりたいのだが。
続いて、怒り。強い怒り。大げさな声はいらない。触れないような、強い怒りがほしい。Mもと、あがりきらず。ムラはいやだな。確実なものがほしい。Kちゃん、ずいぶんと沸点があがってきたな。もっと。
kさわくん、何かに対して怒ってみるんだよ。Aさん、はっきりしない。もっと強い怒りをもつしかない。
続いて、死。この稽古場で死を取り上げてきた感触は、死の軽さだ。それを少し話す。死を畏怖しなければならないとあたしは考える。
まずは、銃殺、絞殺、刺殺される。想像力。死への意識、死への恐怖。求めるものがいろいろ。死のシーン、演劇では山ほどある。それの難しさ、うそを何とかしようや。
Aさん、佇む。それは駄目。うまくできなくても、想像しようとすることだ。やるんだ!稽古は大いに恥をかき、失敗してみるもの。できませんは、結果だけ。
U杉くん、実感。想像力を使った実感ね。見え方ばかり考えない。
Kちゃん、これは実感が足りない。芝居芝居していたな。Mもと、だいたいできているのだが、埋まっていないところが多すぎる。不満。
K太郎くん、こういうものは想像力をフル回転させていかなければ。集中していない。N山さん、どう見えるかを考えすぎなんだな。しかし、それは不自然。お芝居みたい。Kさわくん、追求している姿は好感。そこからだ。2連発。こういう課題の場合、想像したことを加算していくことがコツ。もちろん、なぞるのではない。
さらに、首吊り死体を見る、反応。Aさん、とてもよかった。Mもと、瞬間がもうひとつはっきり見えたい。だいたいではだめだ。
U杉くん、心のざわつきがぜんぜん見えない。K太郎くん、目が動かない。目の余計な力を抜いて、目が自然に動くように。Kさわくん、前回はよかったのだが、今回はいまひとつ。常に瞬間、瞬間。なれてしまっては、できていたことも失う。Kちゃん、発見の瞬間がよくわからなかった。N山さん、これをなぞりが見えた。常にその瞬間ね。
2連発。Aさん、駄目よ。なぞる必要ななし!
音を使っての破壊、開放。自身を壊していく。Mもと、Kさわくんよかった。Kちゃん、もっと壊してみたい。U杉くん、課題を理解していない。内に向かう、外に開く感じ。軟体動物でもいい。N山さん、連続していない。真空になるまで。やれば、ピンときますから。
Aさん、壊していこうとする意気は好感。もっと果敢に。
続いて、音を使っての酔い。酔って歩く。ここにきて、全員よくなってきた。さらに面白くしたい。シーンを創りたい。
引き続き、体験なり、観察なりしてね。
身体表現。音と身体を融合させる。自由な楽器になる。今日の音はリズムがとりやすかったためか、踊りのようになる。これは違うのだが。音を体に入れる。そして、新たなリズムを各自の中から生み出してほしい。声を身体であることをまた、忘れてる。
Mもとはいい。さらに動きの変化や表現として新たなものを。U杉くん、迷いがみえるが、なかなか見えているものはよかった。Kさわくん、いいよ。もっと思い切り。K太郎くん、探らない。つまりね、没頭しなければいつまでもできないのだ。N山さん、向かう方向はいい。さらに没頭。Kちゃん、踊り的な要素が多かったが、あなたの集中はとてもいい。音を楽しんでいる。
Aさん、踊るのでもないし、BGMでもない。まだわからないままだったのかな。さらに次回。
台詞。奴碑訓より。まず言葉の訓練。常に相手の台詞を聞く訓練。
さらにダリア、下男で3組。台詞、もっと稽古したい。そして、役作りの稽古もしているのだな。
愛情表現、秋波。女優ふたりを取り囲む。女優は反応する。Kちゃんは敵意。
言葉がないシーンの緊迫したものが生みたい。
女優の反応が面白かった。さらされて、鍛えられ。
切り取る。U杉くん、Aさんで愛情表現。Aさんの反応が不自然だった。相手をみて、反応する稽古。
U杉くん、N山さんで愛情表現。まあまあ成立。U杉くんがナチュラルで、変で興味深い。この俳優、面白そう。
最後に恒例相関図。U杉くん、N山さんから。まず日常的な愛情シーンから。N山さんに愛情表現のストレートなのを見せてほしい。Mもとが入ってくる。N山さんの瞬間の反応がよかった。のに、また言葉でつなぎ始める。U杉くん、非常にいい。もったいない。止める。
再度。Kちゃん、いまひとつ関係が見えなかった。終始オロオロするU杉くんが最高。Aさんの迷いのない挑みが爽快。女同士のぶつかりあいがあともう少しほしかった。K太郎くん、今日は中途半端。みんな、根底になるのは「愛情」だ。忘れずに。Mもと、うまく入る。Aさんの反応が一刀両断すぎ。U杉くんが面白ろい。Kさわくん、役を作って、背伸びした印象。ありだとは想うけれど。シーンとしてはよく動き、面白くなった。U杉くんの功績大。人の心はぐらぐら動く。そのままでいい。
あたしは芝居、芝居、芝居だけで生きているので、時には過度な炊きつけをする。たくさんの人たちと出会ってきて、この芝居の世界から離れていった仲間たちもたくさんいる。何もかもを捨てなくても芝居はできるが、芝居の優先順位を常に一位にしてほしいだけ。
お金がなければ生きてはいけないから、経済を考えるなら、真っ当に働いて生きていけばいいと、それだけ。
だけど、人間、どうやっても生きていけるのさ。芝居を続けてもね。
あたしは芝居をやる。やると決めたら、とことんやって、続けられなければ、潔く辞めたらいい。
そんなわけで、稽古は続く。