2008/11/10
お互いに刺激しあい、お互いに伸びていく


日中は撮影、瓢箪から駒で、来年のリンカンのチラシデザインを信頼する友人がやってくれることになった。この芝居、何年も演出、翻訳の先生たちとすすめてきた作品、作品に思い入れが強くなればなるほど、大事なチラシになかなか手が出せないでいた。仮チラシはあたしが創ったけれど、本公演のチラシはどうしたらいいのか、と悩む日々だった。だから嬉しい。ほっとした。最初の打ち合わせでメールをやりとりしたが、返ってくる答えが打てば響くようで嬉しかった。
友人のセンスが好きだ。楽しみ。
夕方からは開かれた稽古場。参加者7名、見学4名。
今日は稽古することは繰り返すことを感じてほしいと想い、稽古進行を決めた。
日常の稽古でも繰り返し、繰り返し、ある時「これだ」と想うのだ。その瞬間がくるまで、稽古は繰り返すしかない。
感情の訓練。感情を自在に動かせるようになることがあたしの目標である。まず、深い悲しみ。深い悲しみを心に持つ。深い悲しみを感じ、歩く。動線を指示しながら、繰り返す。立ち止まり、佇むことも入れた。最初は全員なかなか見えてこない。感じていても、それが外に伝わらなければ、できていないということ。しつこいくらいに繰り返す。Mもと、Yき、初参加のHきさんは感情がどんどんあがってきて、歩きにも変化がみえた。だが、物足りない。Kさわくんは何とかしようとあがく。あがいているが、それはできないことへの憤慨のようにみえる。できないとおもっても、こころ、想像力でその感情に辿り着くしかない。観客に伝えることはその感情しかない。N山さん、心が動いてこない。動き出しても、失速する。できないことでさらに殻を閉じている印象。やぶっていくしかない。全体に泣き叫ぶことが答えではないと想うが、グラングランと空気が動きたい。足りない。悲しみに包まれたいのだが。
なぜ、歩かなければならないのだろう、と想いはじめるはずなのだ。さらに繰り返していきたい。
感情の訓練。憎悪。憎しみ。嫌悪。距離を離したところから感情を向こう側に投げる訓練。感情のぶつかりあい。他者の感情への反応、反発、求めるものは発信することだけではない訓練。Hきさんは感情がとてもよく動く。しかし、それを表現することをしてしまう。余計な仕草は感情を薄めるのに。
N山さんは身体も表情も固まってしまい、動かない。心を動かすこと。動かないなあ。稽古は緊張する。でも、その緊張を溶いて、自由になることが必要なのだ。
続いて、同様に。今度は声、言葉を解禁する。Yきがしきりに言葉を投げるが、次第に言葉に頼り始め、言葉だけがきつくなり、感情が伴って行かない。
Kさわくん、この訓練も同じで、自分を煽り立てるようなものに見えてしまう。何を憎むのか、彼女は何をし、自身はどう想い、そして、憎んだのか?具体的な、細かいイメージが足りないのだ。Hき、だんだん感情が濃くなり、余計な仕草が消えた。Mもとも感情がまとまってきた。
感情のやりとりが見えたふたりを切り取る。Mもと、Hき。シーンドライブ。
これは、憎悪の感情からシーンを創る試み。感情の訓練をしていても、仕草にもリアリズムを求めている。まず、距離を離したところから開始。
Mもとの発する言葉、感情を跳ね返すエネルギーがHきから見えない。もっと強く。芝居じみている。心を動かすことだ。止める。アドバイス。
再度。芝居の御約束事、間違ったお約束ごとに縛られた、不自然な行動。徹底的に取り除きたいもの。憎悪する相手が自身の近くにきたら、体は、心はどう反応するのか?大事なのは、そういうリアリズムなのだということ。
向かい合ってセリフを言うことが芝居ではない。心のままに動いてみたときに
その仕草は成立する。止める。アドバイス。
再度。とにかく、逃げてみることを指定する。Hきの動きにスピード感とリズムがみえてきた。いい。Mもとの感情の動きが雑。相手から受け取り、感情が変化していくようになりたいね。憎悪から次第に離れていき、哀願のようになる。Hきの声にも変化がみえてくる。心を伴った仕草は本当になる。
再度。繰り返すことで俳優の感情は埋まっていく、感情のやりとりは成立していく。動きにリズムができてくる。そう、ピンとくるまで繰り返す。何度も何度も繰り返せば、嘘はなくなっていく。しつこく、執着し、繰り返すこと。稽古は繰り返す事でしか、答えを掴めないということ。
できないと想ったり、言ったりしている時間は無益。繰り替えせば、絶対できるのだから。できたときを想い出せ。できたときはとても心地よいはず。それが、俳優という仕事なのだな。
続いて、Yき、N山さん、Kさわくんでシーンドライブ。相手へ反応がまったくできていかない。Yきに憎しみが見える。Kさわくんがかかっていくが、失速する。N山さん、どうしても相手への反応ができない。話しが空回りしていく。
芝居は相手役とともに創るものなのだ。エチュードも芝居なのだ。それぞれの手柄をあげるものではなく、シーンをドライブさせることで面白いシーンを創ることだよ。空回りの連続。つまらん。
休憩。途中参加2名加わる。
さらに感情の訓練。憎悪の感情の受け渡し。距離を創り、投げ合う。
S井くんがいい瞬間を見せるのだが、持続しない。しばらく来ていなかったうちに持続力低下していて、がっかり。それぞれが言葉を発していく。言葉が錯綜し、空気が動く。続いて、動きを解除してみる。
激しいぶつかりあいだけにならず、さらに細かい受け渡しでありたい。
続いて、俳優自身としてそこに居る訓練。アクティングエリアに俳優自身をさらけ出す試み。観ていて、息が詰まってしまう。まだまだ。何かをしようとしない。ただそこに佇み、等身大で心を動かし、想像する。Iダイが魅力的。何かが心の中で動いている。俳優自身の宇宙がみたい。
Hき、演じてしまう。違う。N山さん、まずはあなた自身で歩くこと。S井くん、最初はよかった。すぐに何かをしようとしてしまう。最初のまま、居続けられる存在感を手に入れたいね。Mもと、だいぶ居られるようになっている。もっと自由に、もっと自然になりたい。Yき、もっと心をうごかして、想像力を使ってほしい。ストップモーションのように見える。Kさわくん、なかなかあなたらしくいられる度胸がついてきた。さらに自由に、自然に息をして。緊張感を取り除きたい。
再度。繰り返し、破壊するところまで。どこまで己を壊していけるか。Mもとが形になりつつある。身体で表現するのではなく、結果として身体も表現となる。そうありたい。S井くん、時折出る壊れそうな感じ。それをもっとつっこめ。N山さん、見え方は考えなくていい。もっと集中してほしい。Iだい、よかった。今回は意思と覚悟が見えて好感。Yき、何かをやろうとしているのだが、それはやはり見えなければゼロだ。やるしかない。表情の変化、体の変化、本当がみたいのだ。Hき、違う。何かをやるのではない。自身を壊してみる。Kさわくん、やってやろうという強いもの、それは素敵。しかし、表現としてみえるところにいかなければね。もっと壊すしかない。
悲しみ、死の感情訓練。ドアを開けると最愛の人の死。ドアをあける前の状況をもつこと。同時多発で。2連発。繰り返し。
芝居のためなら、誰かに死んでいただいて下さい。あやふやな人ではこれはできない。どん欲に。罰はあたりません。
1発目は特筆するものなし。しっかり見る事、想像すること。本当の心を動かす事。そして、泣いてあげること。その人のために。
2発目、Iだい、S井くんよかった。Yきはもっとありのままでいいのに、何かを設定しすぎ。どうして、その方向にいってしまうかなあ?
Mもと、意外に苦手なのがこの「死」。想像力が足りない。N山さん、想像しているものがあやふやなのではないか?そこを越える。越えないとできないね。Hき、いいのだが、見えるものが弱い。もっとはっきり見えたい。何に遠慮しているのか?センターでサスを浴びられる女優になれ。
続いて、愛情表現。愛情を投げる。あるいは秋波。見えるものが弱い。愛すること、想う事、大事だと基本だとあたしは想っている。色気。どきどきするものが欲しい。
感情で観客をどきどきさせたいのだ。
今日はセクシャリティを課題にしてみる。色気のある俳優でありたい。
抱擁。観客がドキリとする抱擁を身につけたい。観客の視線を落とさせないもの。
それぞれに片鱗はみえた。皆、魅力的ではあるが、魅力にまでいかない。形とパッション、そして「色気」
観て来たもののワンシーンの物まねで終わらず、もっと自分のものにしたら、いい。
Hき、色っぽいと想った。惹き出したい。全員、照れを取り除きたい。Iだいはもっとやんちゃなはず。色気があるのに。Mもとはもっと悪いところが出れば、いいのに。Yき、あなたのオリジナリティを極めればいいのに。N山さん、もっと日常を活かせばいいのに。Kさわくん、もっと経験を重ねればいいのに。一生懸命だけじゃ、面白い人にはなれないよ。色気の追求したいね。
身体表現。音との融合。Mもと、Yきいい。Iだい、よいがときおり頭が働く。惜しい。N山さん、だいぶ音に入れるようになった。その方向。Kさわくん、動く事に必死。音を聴く。楽しむのよ。Hき、よく動けている。さらに陶酔してみたら?面白くなってきたと想う。さらに。
声の確認、声の増殖。とにかく声が弱い。ダメ。予想のつくものではだめ。
発声は毎日、やる。四股からの身体の変化もほしいのだが、静止に終わる。
恒例相関図。Hきが素直に反応するので、いい流れ。S井くんに強い愛情が見えた。Yき戦法は面白いが、そこに愛情という大事なものが見えたい。
Mもと、帰りかけて、立ち止まり、戻る。これがもう少し気持ちの流れがわかりたかった。何十回も繰り返したこのエチュード、はじめて女優がひとりを選んだ。その瞬間は劇的だった。Kさわくんの反応もよかった。
N山さんはなぜに心が動かないのか?とにかくこうしようというクールな結果しか見えない。そうではない、そこにいたる気持ちの流れがほしいのだ。気持ちの無精はいけませんね。
Iダイの攻撃に変わるところは面白かったが、やはりその前にあるはずの愛情が弱い。愛情がつよければ、もっと活きた。
2連発の成果ありかな。
以上。
見学の方も交えて食事会。いくつも質問をされたが、なんだか言いたい事がよくわからなかった。お互いに刺激しあうためにここは開放しているので、
理屈はいやだ。結果を出していくしかない。
さらに極めてみたい。